パリ・ノートルダム大聖堂と首里城
2019年の火災を超えて 復元と文化遺産の価値を考える
ジョン・ラスキン 建築の七灯 (抜粋)
ジョン・ラスキン。ゴシック様式の破風の図面 © Google
1844年のウジェーヌ・ヴィオレ=ル=デュック © Médiathèque de l'architecture et du patrimoine MAP
ベンジャマン・ムートン (訳:河野俊行)
賛否両論?
ヴィオレ=ル=デュックは建築家として、またジョン・ラスキンは画家として、それぞれ建築遺産に深い思い入れを持っていた。彼らの "論争" は、彼らの観点の違いを反映している。
ラスキンにとっては、たとえ建物がいずれ消滅しなければならないとしても、歴史的資料を傷つけずに保存することが必須であった。曰く、「過去の記念物を保存することは、単なる利便性や感情の問題ではない。我々にはそれらに触れる権利はない」。他方、ヴィオレ=ル=デュックにとっては、建物を劣化から守り、維持・修復によって存続させることが重要なのだ。
ラスキンとヴィオレ=ル=デュックは両者ともに下手な修復や無能な実務家を非難した。そして実際、両者は互いに正当な評価を与えていた。「君に言っておくが、建築に関する価値ある本は一冊しかない。それにはすべてが正しく書かれている。ヴィオレ=ル=デュック氏の辞典がそれだ。。。私の著書は歴史主義的で感傷的だ。そしてそれで正しいのだよ。」。ジョン・ラスキンからある若者へ、1887年3月2日。
ヴィオレ=ル=デュックの理論
ヴィオレ=ル=デュックの「辞典」中の「修復」項目の説明は、こう始まる。「建物を修復するということは、それを維持することでも、修理することでも、作り直すことでもなく、過去のいかなる時代にも存在しなかったかもしれない完全な状態に再構築することである。」
しかし、更に読み進むとこう書かれている。
それぞれの事例は特殊である。「ある時代のモニュメントが何度も修復された場合」、「混乱した様式を再統一すべきか、それとも後世の改変も含めて全体を正確に再現すべきであろうか。どちらか一方に絶対的なものとして拘泥することは危険であり、逆に個別の状況に応じて行動することが必要である」と述べている。ヴィオレ=ル=デュックは、教条的でなく、現実的である。
調和と統合の原則 「跡形もないモニュメントを9つの部分に分けて作り直すことが問われているとするなら、担当する建築家は、修復を任されたモニュメントの適切な様式をよく理解していなければならない」。それは、「統合」と「調和」の問題である。
建築的分析の重要性 「修復においては、如何なる理由があろうと絶対に逸脱してはならない重要な原則がある。それは、配置を示す如何なる痕跡をも考慮する、ということである。決め手となるすべての情報の中に身をおくことがないまま、先験的に配置を決定することは仮説に陥ることに外ならないが、修復作業において仮説ほど危険なものはないのである。」
ヴィオレ=ル=デュックの金言:
「最善の方法は、もし当初の建築家がこの世界に戻ったとして、私たちに求められているプログラムを彼に担うよう求めたら彼はどうするかを、彼の立場になって考えることである。」
厳格さの先取り
ヴィオレ=ル=デュックは、構造と建築のデータを厳密に分析し、歴史的価値よりも建築的価値を優先させることを主張した。彼は、建築家の当初プロジェクトと、後継者達のその後の貢献を理解することを自らに課した。これは現代的な「批判的保存」のアプローチであり、調和の概念や仮説の拒否により、ヴェニス憲章や現代の保存理念に近いものとなっている。
ジョン・ラスキン ヴェネツィア、ドゥカーレ宮殿 © Ashmolean Museum, Oxford
ヴィオレ=ル=デュック、ヴェネツィア、ドゥカーレ宮殿 © MAP
ヴィオレ=ル=デュック ヴェネチアの宮殿の構成学的研究 © MAP
ヴィオレ=ル=デュック. パエストゥム神殿、1836年 © Musée d'Orsay
ヴィオレ=ル=デュック 作業台にて、ジョフロワ・ドショーム、1880年 © CAP